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2026/04/03 10:47

【種一揆】 第二十話 「気候変動と在来種の可能性」

近年の夏は「観測史上最高気温」が当たり前のように更新されています。
日本の稲作もその影響を大きく受けています。

代表的なのは 高温障害 です。稲の登熟期(実が入る時期)に気温が高すぎると、「白未熟粒」といって米粒が白く濁ったり、「実の充実度の低下」によって米粒が扁平になってしまう、「胴割」といって米粒に亀裂が入るなどの障害が増えて品質が落ちてしまいます。
(※品種特性として、もともと玄米がやや白濁している品種もあります。)

さらに、豪雨や台風による冠水・倒伏、反対に干ばつや渇水による水不足、そして温暖化に伴う病害虫の北上・拡大など、稲作は多方面から気候変動の影響を受けています。

農家の方々にとっては、毎年の気象の不安定さが大きなリスクとなり、これまでの経験や栽培技術だけでは対応が難しくなりつつあります。

在来種が持つ「未来への可能性」

今、気候変動の時代に在来種が持つ可能性を一緒に見直してみましょう。その可能性は大きく3つに整理できます。

1. 遺伝的多様性の「保険」
在来種は近代品種に比べて遺伝的に幅が広く、干ばつや冷害に強い遺伝子を持っている場合があります。
FAO(国連食糧農業機関)の報告書でも「在来種や野生種は気候変動への適応に不可欠な遺伝資源」とされています。つまり、在来種を守ることは、将来の新品種育成のための“保険”なのです。

2. 地域環境に適応した特性
かつて、東北の在来種には冷害に強いものがあり、静岡や福井には塩害に強い在来稲、ほかには風に強い品種も報告されています。
これは「在来種=直接気候変動に強い」というよりも、「それぞれの土地で長年の環境に耐えてきた」という歴史の中に、未来を支えるヒントがあるということです。

3. 多様性によるリスク分散
単一の品種に依存すると、一つの病害虫や気象リスクで壊滅的な被害を受ける可能性があります。
一方で、複数の在来種や品種を組み合わせることで「どれかが不作でも、他が収量を確保できる」仕組みを作ることができます。

在来種の特性をたどる

例えば、ササシグレの系譜をたどってみると、育種の過程で在来種の特性を新たな品種に取り入れようとする過程を垣間見ることができます。
イネ品種データベース検索システムより

「愛国」は、耐冷性と耐病性に強く、過酷な環境でも生き抜く在来稲だったと言われています。明治末期から昭和初期の寒冷地で広く栽培されました。その変異である「銀坊主」は、いもち病に強く、多収であること、肥料が多くても倒伏しないこと、日照不足でもよく採れるといった特徴がありました。

「朝日」は、品質や食味が良い品種で、大正末期から昭和前期にかけて全国的に広く栽培されました。「亀の尾」は、冷害には強いが、いもち病には弱い、ただし早生で多収で良食味という特性があります。

結果としてササシグレが受け継いだ良い特性は、「多収」「良食味」です。ただし、病気に弱く栽培が難しいことから、後の品種に取って代わられています。しかしながら、そのおいしさはかつて東北を中心に名を馳せた「ササニシキ」を凌ぐ品質とも言われています。


日本の在来稲

日本では、つくばにある農業生物資源ジーンバンクに在来稲が多数保管されています。以前、種を譲り受けて栽培できないかと現地を訪れた際、その地域由来の種であれば、元々あった地域へ種をお返しするということで可能な場合もあるが、全く関係ない地域では配布はしていないということでした。
基本的には、研究のための遺伝資源として保存されているということです。

おわりに

気候変動の時代、在来種は「過去の遺物」ではなく「未来の可能性」とも言えるのではないでしょうか。
その多様性と歴史は、これからの稲作を支える大きな力となり得ます。連綿と受け継がれてきた一粒のタネこそ、気候変動を乗り越える希望の種なのです。


<参考文献>
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター イネ品種データベース検索システム
https://ineweb.narcc.affrc.go.jp/hinsyu_top.html
宮城県古川農業試験場研究報告4号(p. 79-128  2005年2月)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010775019.pdf
農業および園芸83巻2号(p. 260-273  2008年2月)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010753203.pdf
FAO, The Third Report on the State of the World’s Plant Genetic Resources for Food and Agriculture
https://doi.org/10.4060/cd4711en