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2025/11/16 08:48

【種一揆】 第十五話 「タネと法律」

私たちが日々口にするお米。その一粒一粒の背後には、長い時間をかけて育まれた品種と、農家が守り続けてき「種」の歴史があります。
しかし、その「種」をめぐる制度は、戦後から現在にかけて大きな変化を遂げてきました。

2018年に廃止された「主要農作物種子法(種子法)」、2020年の「種苗法改正」は、農業界にとって大きな転換点となった出来事です。

種子法とは何か?

主要農作物種子法(以下、種子法)は1952年に制定されました。戦後の食糧不足を背景に、米・麦・大豆といった国民生活に欠かせない作物の種子を、国と都道府県が責任をもって供給する仕組みでした。

種子法の目的は大きく3つに整理できます。

安定供給:国内の農家が必要な種子を確実に手に入れられるようにする
品質維持:栽培に適した品種の特性を守り、食味や収量の安定を確保する
在来種保護:地域ごとの気候・土壌に適した品種を保全する

自治体は「公的育成品種」を生産・普及する義務を負い、農家にとって安心して種を得られる基盤が整えられていました。

種子法廃止の影響

しかし、2018年4月1日に種子法は廃止されます。
背景には「民間参入を促して競争力を高める」という政策目的がありました。

ですが、農業の現場には下記のような懸念が広がりました。

公的機関の種子供給が減少する可能性
民間企業が収益性の高い品種に集中し、多様性が失われるリスク
地域固有の在来種の維持が、農家の自己努力に委ねられてしまう

つまり「食料の安定供給」と「多様性の確保」というバランスが揺らぐ懸念が出てきたのです。

種苗法改正

さらに2020年には「種苗法」が改正されました。
これは「品種の海外流出防止」や「育成者権の強化」を目的としたものです。

・登録品種の自家採種には育成者の許諾が必要
・海外への持ち出しを規制
・一般品種は登録対象外に

結果として、新品種開発を行う企業にはメリットがありましたが、一方で農家が自家採種を続けにくくなり、在来種の継承にも影響が及ぶ可能性があります。

タネをめぐる法律の変遷

1952年:「主要農作物種子法」制定
 → 戦後の食糧不足を背景に、安定供給と品質維持を目的に国と都道府県が種子供給を担っていた。

2018年4月:種子法の廃止
 → 規制改革推進会議やTPPの流れを受けて廃止。民間参入を促進する一方、地域在来種の維持や種子供給に関する懸念が課題となった。

2020年:「種苗法改正」
 → 品種の流出を防ぐため、登録品種の自家増殖に育成者の許諾が必要になった。海外持ち出しも規制強化。農家の自家採種が難しくなるとの声もあがった。

種子条例の施行

ここで注目すべきなのが、自治体の取り組みです。

2018年4月1日、新潟県・兵庫県・埼玉県が、種子法廃止と同時に「主要農作物種子条例」を施行しました(制定は同年3月)。新潟県が最初に動き、その流れに他県が続いた形です。
その後、他の自治体でも次々と条例を制定。現在では30以上の道県が独自の「種子条例」を整備しています。

条例の内容は自治体ごとに異なりますが、共通しているのは以下の点です。

・主要農作物(米・麦・大豆)などの種子を引き続き公的に供給する
・自治体が中心となり、種子の品質・安定性を確保する
・在来品種や地域性を重視した奨励品種の普及を続ける

つまり、「国がやめたことを、地域で守り抜く」という意思表示でもあります。地域の奨励品種を自治体が引き続き支援し、次世代に引き継ぐための仕組みです。

まとめ

1952年:主要農作物種子法(種子法)制定 → 戦後の食料安定のため
2018年:種子法廃止 → 民間参入促進の名のもとに義務が消滅
2020年:種苗法改正 → 品種流出防止と育成者権強化
2018年以降:各地で「種子条例」制定 → 地域の種を守る動き

おわりに

タネに関する法律の流れを振り返ると、国が主導して守ってきた種子が、今は農家や地域、そして私たち消費者の選択にゆだねられていることが見えてきます。

種子法廃止や種苗法改正の頃には盛んに話題にされていた「種の保存と継承」ですが、今では業界内でもあまり話題に上がらなくなりました。

在来種や地域品種が消えてしまえば、二度と戻りません。
だからこそ、地域の農家と一緒に「守る」取り組みを広げることが大切だと思います。

私たち「いちたね」も、100年先に残したいお米を取り扱うことで、お米の種の保存や継承を応援したいと考えています。

<参考文献>
農林水産省「種苗法の改正について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syubyouhou/
農林水産省「稲、麦類及び大豆の種子について」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/info/171116.html
新潟県「主要農作物種子(新潟県主要農作物種子条例)」
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/nosanengei/1356891012299.html